歴史学を学ぶということ──私たちは、現在、どこにいるのか──
歴史学が扱うもの、それは所蔵された古文書、続々と発掘される遺物や遺跡だけではありません。絵画や文学、口承、土地景観などのあらゆる「時」を刻んだ記録や記憶に及びます。ただし、これらをたんなる知識として身につけることをめざすものではないのです。また、そこから読み出すものは、ifの世界でも、「現在」の肯定でもありません。
歴史学がめざすのは「昔の人のみた世界とはどのようなものだったのだろうか」「人間はどうしてこのような社会をつくり上げてきたのか」という人間の可能性を探り出すことなのです。しかし、人間が主観としてもった空間と時間に対する認識は、客観的に存在した空間や流れる時間という実体とは異なっています。私たちは、歴史学を通じて事実と真実の「あいだ」(それは真実か)だけでなく、事実と「認識」(それはどのように捉えられていたのか)の、そして「認識」と「記憶」(それはどのように伝えられたか)の「あいだ」にも踏み込むことによって、はじめて人間の可能性と「現在」とを「時」のなかに捉えることができるのです。
井上文則 (西洋史、「ローマ帝国史」)
上田裕之 (東洋史、「中国財政史」)
楠木賢道 (東洋史、「清代内陸アジア史」)
柴田大輔 (西洋史、「古代メソポタミア宗教史」)
中西僚太郎(歴史地理学、「近代日本の歴史地理」)
中野目徹 (日本史、「日本近代思想史・史料学」)
浪川健治 (日本史、「日本近世社会史・北方史」)
根本誠二 (日本史、「日本古代史・宗教史」)
山田重郎 (西洋史、「アッシリア帝国史・旧約聖書学」)

近年、学問の世界でも効率主義・社会還元などの名のもとに諸々の弁別(仕分けとも)が行われています。理科系・文科系を問わず、例えば研究費や人員の配分などをめぐって。そうした際に必ず「噴出」してくる語句が実学と虚学です。はたして文科系、中でも歴史学はどちらに属すのでしょうか。もちろんこうした区別は、単純に「世間に役にたつ、たたない」ということでなりたっているとは思いません。しかし、一般的に歴史学は虚学であるとのレッテルをはられています。これについては、「虚学あっての、実学でしょう」という呟 (つぶや) きをもって対峙したいのです。
歴史学として、日本史を学ぶということは、古代史なり、中世史・近世史、さらには近・現代史のいずれであっても、私たち自身が、日々、歴史を作くりつつ過去とかかわっているという自覚のもとに、これからの私たちの自立的な生き方を読み解く材料を得るとことだと思います。つまり「生きる」という人間にとって最も根源的な部分への真摯な問いかけを行うのが、歴史学ということなのです。人間は、どのように生きるべきかを問うことです。これは、虚学ではなく、実学であると思います。そして、それを同時代の人々に語り続けることも大切な「使命」として、私たちに課せられています。何よりも歴史学を学ぶということは、単に、先人が書き記した書物や膨大な史資料に囲まれて学び続けるだけではなく、「時と場を選ぶことなく」、それをまもりつづけてきたより多くの人々と語り合うことも大切だということです。
日本史概説では日本の古代~現代についての通史的展望を試みます。日本史概説の履修者は、(1)日本史専攻を志望する者、(2)その他の史学、考古学・民俗学コースで基礎科目として履修する者、(3)その他、日本の歴史への全般的な関心から履修しようとする者、と多様であるため、近年の研究動向を踏まえた日本史像の提示とともに、これから日本史の研究をはじめようとする人たちへの研究入門の役割も担っています。
皆さん、「日本史」と言うとどのようなことイメージを持ちますか?年号や人物名を暗記しなくてはならない面倒な科目?本をたくさん読まなくてはならない大 変な科目? 確かに中学・高校までの「日本史」はそうしたイメージが強いかもしれません。でも、大学での「日本史」はそれだけではありません。
日本史コースでは、概説・史料学・特講・実習・演習という授業があります。これらの授業は中学・高校のようにただ「何年に誰が何という事件を起こした」と いう事実を暗記するのではなく、どのような時代背景の中でどのような出来事が起き、その結果がどのようにその後の時代に反映されていくのかということを細かく学びます。最初はただ暗記するだけだった高校までの授業との違いに驚くかもしれません。でも、より詳細な時代背景まで学ぶことでそれまでは見えなかった部分や他の出来事との繋がりが見えてくると、歴史に対し新たな興味を持つことが出来ます。
日本史コースでは二年生から演習に参加することになります。そこでは、学生が与えられたテーマについて調べて自分の意見を発表し、それについて他の学生と討論を行います。ただ本を読んで得た知識ではなく、自分なりの考えをまとめ、発信することは社会のなかでも必要な力です。討論を通して新たな興味を得ることもあります。演習はただ自分の意見を発表するだけではなく、新しい刺激を得て自分自身を深める場でもあるのです。
また、日本史の大きな魅力の一つは色々な場所を訪れる授業があるということです!日本史コースでは日帰りで行う巡検や二泊三日程度の実習など、大学を出る授業が多くあります。どんな出来事を勉強する場合でも、ただ図書館で本を読むよりも、実際に現地を訪れて自分の目で色々なものを見るほうがよりリアルに歴史を感じることが出来ます。
このように、大学での日本史の勉強は一人で部屋の中で本を読むだけではありませ ん!色々な場所に行き色々な物を実際に見て、色々な人と意見を交換することが、もっとも大切なことなのです。

21世紀は,「アジアの時代」といわれています。我々は,アジアの一員として行動し,隣人に受け入れてもらうことが,求められています。このとき重要なことが2点あります。第一に先入観を排除し,諸国・諸民族がそれぞれに持つ豊かな歴史的内実を根本から理解することです。このためには,アジアの諸国・諸民族を客体化し,原典史料を使って,科学の目で,それぞれの歴史を見つめる必要があります。第二に,逆説的ではありますが,歴史を研究しようとする自分が,学校教育や社会との関わりのなかで,固有の歴史観を持っていると認識することです。人は,自分がすでに持っている歴史観から完全に解放されて,自由に歴史を理解することはできません。むしろ,自分の歴史認識にはこのような限界があり,自分の歴史観が絶対的なものではないことを自覚することが大切です。この2点に基づく自己と他者の正しい認識なくして,隣人との相互理解・共生は成立しません。筑波大学の東洋史はこのようなことをめざした,ちょっと骨太なコースです。
東洋史コースは,中国史とアジア史の2つのサブコースに分かれています。いずれも現代との関わりのなかでアジアの歴史を理解するという観点から,中国史サブコースでは14世紀以降,近現代までの歴史に重点をおいています。アジア史サブコースではユーラシア東半の内陸アジアと東アジアの歴史を学べるようになっています。若い諸君が,新しい問題意識と充実したカリキュラム・史料により,東洋史の研究に挑まれることを期待します。
四千年とも五千年ともいわれる中国の歴史ですが、それは、「中国」という決まった枠組みのなかで王朝交代が繰り返されるという単調な物語ではなく、黄河・長江の流域を主な舞台として、さまざまな民族がたがいに影響を与えあい、形を変え、数千年の時間をかけて今のような中国を形づくっていったという、非常にダイナミックな歴史です。中国史概説では、そのような中国史を古代から近代にかけて見渡し、中国史の大枠を理解することを目指します。
「東洋史」と聞いて,皆さんは何を思い浮かべますか?
入学当初の私は,恥ずかしながら「東洋史」といったら漢文!と思っていました。皆さんも,多様なイメージを持っているでしょうが,筑波大学の東洋史コースでは,そのようなイメージとは異なった東洋史を学べます。
筑波大学の東洋史コースの第一の特徴は,地域的な広がりです。満洲・中国・モンゴル・チベットなど広くカバーしています。更に満洲語など,それぞれの研究に必要な言語を学び一次史料を利用するという特質があります。たとえば,私の専攻している清朝時代の研究では,漢文史料だけでなく満洲語,チベット語,モンゴル語などの史料も利用すると,皆さんの想像する「東洋史」とは全く異なった東洋史が浮かび上がってきます。これを聞いて,「難しそうな言語を学ばなきゃいけないのか……」と意気消沈してしまうかもしれません。私も当初はそうでした。しかし,どの言語も1・2年次から授業で教わると,ほとんどの人が,一次史料を駆使して卒業論文を執筆できるようになります。何よりも,その時代を生きた書き手の「生の声」が反映された一次史料を見ていると,気付いたときには,かなり読めるようになっているものです。そして,筑波大学は多くの史料を利用できる環境が整っており,先生方も熱心にご指導くださいます。まさに,やる気次第でどんどん可能性が広がっていきます。
皆さんの既成観念の「東洋史」像を一新して,筑波大学で東洋史を学びませんか?
歴史研究は、昔の人々が残したさまざまな史料を見つめ、当時の世界を追体験しようとすることに始まります。そして「過去」を見つめることで、私たちが生きているこの時代と社会に対して賢明な意見をもつ「歴史感覚」のある一個人として社会に参与するのが歴史学徒の究極の目標です。
西洋史コースでは、西洋の現代語、ラテン語、ギリシア語、ヘブル語などの古典語、楔形文字アッカド語のような古代語を時間をかけて学び、本物の「西洋」の声に耳を傾けようと努めます。既成の「歴史」を記憶するのでは飽き足らない、たとえ手間がかかってもじっくり構えて研究してみたい、という諸君を歓迎します。
本コースには、「オリエント史」と「ヨーロッパ・アメリカ史」の二つのサブコースがあり、それぞれのコースに個別のカリキュラムがあります。オリエント史コースでは、メソポタミアを中心とした古代オリエント世界を研究し、ヨーロッパ・アメリカ史コースでは、西欧の文化史のながれを幅広く把握しつつ、テーマを定めてより深く研究します。オリエント史研究にはヘブル語・アッカド語の習得が、ヨーロッパ・アメリカ史研究にはラテン語あるいはギリシア語の習得が必修として求められます。(なお、より専門的なアメリカ研究は、比較文化学類で開設されています。)
ひとくちに西洋史といってもその研究対象は様々です。高校での世界史のように歴史上の大きな出来事について学ぶだけではありません。各時代における政治や文化などもっと細かく学んでいきます。一年次にはいくつかの概説科目を受けてその中から自分の興味があるテーマを探していくことになるでしょう。三年次からは各コースに分かれて、自分の決めたテーマについてより専門的な研究を行っていきます。
私はオリエントコースで古代オリエントの宗教に関して研究していますが、オリエント史ではその他にも政治であったり、商業であったり、神話であったり、様々なテーマを見つけることができます。ヨーロッパ・アメリカ史も同様により深いテーマを定めることになるでしょう。簡単ではありませんが、先生方の助けを借りながら、自分が興味を持ったことに対してとことんまで取り組んでいけます。
また西洋史ですから専門的な研究を進めるために欧米の学者たちが書いた研究書を読む必要があります。そのため英語のほかドイツ語やフランス語などの言語が必須になります。その他にも文書資料を読むためにラテン語やアッカド語といった特別な言語も学んでいきます。大変そうに感じるでしょうが、一・二年次から少しずつ慣れていけば次第に読めるようになります。なにより、粘土板に記された古代の人々の言葉や、偉大な王様が書いた手紙など、数百年、数千年前の文書を自分の手で読み解いていくのです。読めるようになった時には大きな達成感を得られるでしょう。筑波大学の図書館には専門の研究書や資料が豊富に所蔵されているので、勉強するよい環境が整っています。きっと皆さんも、自分の関心のあるテーマを見つけて満足いくまで勉強ができると思います。

歴史地理学は、学問の本質論や方法論からは地理学の一分野に位置づけられますが、過去の人間集団の営みを明らかにするという点では歴史学に近い内容をもつ、地理学と歴史学の境界領域の学問です。歴史地理学では、地域や空間、景観、環境といった地理学で発達してきた基礎概念をふまえて、過去の人間集団が地表面をいかに組織し、生きてきたかを追究します。取り扱うテーマは、都市や村落などの居住空間に関することから、人口、産業、交通などの社会経済的な事象、ならびに宗教、民俗文化など多岐に渡ります。対象とする地域は、日本のみならず、欧米、アジア諸地域に及び、時代は古代から近現代までを扱います。その意味では非常に幅広い分野といえます。研究方法としては、古文書、古記録などの文献資料を活用するとともに、野外での景観観察や聞き取り調査も重視します。特定の地域や時代にとらわれず、歴史学とは違った観点から過去の人間集団の営みを学んでみたい人は、歴史地理学の世界に足を踏み入れてみませんか。
歴史地理学概説では、歴史地理学の基本的な見方・考え方を、古代から近代までの主として日本の事例を題材にして解説します。世界各地の歴史地理についての詳しい内容は、各地域の歴史地理学講義で勉強することになります。ほかに、歴史地理学の各専門分野のこれまでの成果や方法論を学ぶ特講、論文講読を通して研究手法を勉強する演習、フィールドワークの方法を習得する実習などが用意されています。

歴史地理学という学問分野は初めて聞く方がほとんどではないでしょうか? 興味はあっても名前が漠然としていてどういった研究をしているのかがよく分からないという方もいるかもしれません。私もその一人でした。このように歴史地理学に興味はあってもどういった学問なのかがよく分からないという方は歴史地理学実習に参加してみてください。フィールドに入って歩き回り、景観観察をしたり古文書や古地図を解読したり地元の方々に話を伺ったり…。こうしたフィールドワークは歴史地理学の研究をする上で欠かせない基礎的なことです。実習では先生や大学院生の指導や協力を得ながらフィールドワークの方法を体験的に学ぶことができます。実習に参加すれば座学にとどまらない歴史地理学の面白さを体感できます。また、実習の経験は卒業研究のテーマを探す上でも大いに役立ちます。
先輩方の卒業研究は様々なテーマ・時代・地域で行われています。例えば、近世の古地図や古文書を解読してその当時の景観や生活を復元するという研究もあれば、地元の方々への聞き取り調査などを通して地域の産業構造の変化を明らかにするという研究もあります。歴史地理学は取り扱う範囲が非常に広い学問なので得ることができる知識も幅広く、皆さんの興味に沿うテーマがきっと見つかるはずです。筑波大学に入学して歴史地理学を学んでみませんか。